特集

北九州市次世代ワークデザイン研究会リポートVol.1~4「機が熟してきた“副業・兼業”容認」の流れ

  •  

「次世代ワークデザイン研究会」とは、北九州市と産業界がともに「副業・兼業」について考える取り組み。現状、ほとんどの企業や自治体で「副業・兼業」が認められていないが、これらが「認められる」または「推奨される」社会になると、「非正規雇用の処遇改善」や「長時間労働の是正」、「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」など「働き方改革」につながると言われ、政府も具体的な実行計画を定めている。

一方で雇用する企業側にとっては「労働力流出」や「情報漏えい」などの懸念も多い。この研究会では「それらを真正面から議論して、一つ一つの不安要素を解決できるようにしたい。働き手、雇用者、地域社会がともに柔軟な働き方を考え、設計(デザイン)する雰囲気づくりにつなげたい」と、研究会を主宰する市産業経済局産業政策課課長の田原温(あつし)さん。

 背景には、北九州市の急激な人口減がある。近年、毎年約5000人ずつ減っており、近い将来の労働力不足が予想される。人口減少に歯止めを掛ける施策も重要だが、「副業・兼業」容認の機運を醸成することで、知識の交流につながりオープンイノベーション化、新たな技術開発、起業促進、第二の人生の準備などにつなげ、高度人材を市内に留めおくことも大切だと市では考えている。

第1回研究会
2017年12月20日(水)秘密基地

暮れも押し迫った12月20日、市内の中小企業代表や製造業大手の人事担当者らが集った。冒頭「三菱ケミカルリサーチ」(東京都新宿区)の主幹研究員・荒川文隆さんによる「副業・兼業に関わる(国内の)状況」説明があり、政府が進める「働き方改革実行計画」の概略や「副業・兼業推進の背景」、懸念、活用事例などが提示され、本題に入った。

 会は、「北九州市立大学」(小倉南区北方4)地域戦略研究所・特任教授の田中ひろみさんによって進行され、出席した「新日本ホームズ」(八幡西区折尾3)代表取締役・舟木和博さん、「戸畑ターレット工作所」(小倉南区新曽根)部長・池田真佐博さん、「日産自動車九州」(京都郡苅田町)人事・渉外部取締役常務執行役員・東俊明さん、「ネクストクリエイション」(門司区葛葉1)代表取締役・清藤貴博さん、「富士通コミュニケーションサービス」(小倉北区浅野3)総務人事サービス部担当部長・藤野英明さんらが、それぞれ自社の現状や課題、「副業・兼業」を容認した場合の懸念などを話した。

 参加した企業のほとんどが、就業規則に副業・兼業に関する項目は設けておらず、「原則禁止」しているが、「家業の手伝い」など本人の事情を鑑みて容認しているケースもあり、会の終盤には、自社のルール作りをしたうえで、届け出や申請によって容認するという意見も出始めた。田中さんは「次回以降、(副業・兼業を認めることで)社員の自己成長や生産性向上、社会貢献などにつなげる、さらに起業やイノベーションにつなげるための課題などを整理していきたい」と期待を込めた。

第1回研究会「副業・兼業を容認することへの期待」まとめ

【企業の期待】

  • 他社での経験・知識を自社のビジネスに活用する
  • 社員の自己成長の機会
  • 地域貢献としての事業に、副業・兼業人材を充てる
  • 定着率の向上
  • セカンドキャリアでの活用
  • 人手不足に対する充当
  • 地域ネットワークの強化
  • オープンな会社風土の醸成
  • イノベーションの機会
  • わからない

【労働者の期待】

  • 現業の外の世界を知る機会
  • 創業の機会
  • セカンドキャリアの準備

【企業の不安】

  • 当社の仕事をそのまま他社でやられては困る
  • シニア層の副業・兼業は考えられるが、育成中の若手人材は難しい

【その他コメント】

  • 就業規則で禁じていても、許可制で認めている事例はある。できないことではない。

第2回研究会
2018年1月23日(水)秘密基地

コミュニケーションを通じて「双方納得の上」認める

 前回の研究会から約1カ月、「新日本ホームズ」(八幡西区折尾3)代表取締役・舟木和博さん、「戸畑ターレット工作所」(小倉南区新曽根)経営管理部長・池田真佐博さん、「日産自動車九州」(京都郡苅田町)人事・渉外部取締役常務執行役員・東俊明さん、「ネクストクリエイション」(門司区葛葉1)代表取締役・清藤貴博さん、「富士通コミュニケーションサービス」(小倉北区浅野3)総務人事サービス部担当部長・藤野英明さんらが、自社で「副業・兼業」を容認する場合、管理する場合をシミュレーションして持ち寄った。

  「規則上はNGだが、柔軟に判断している。本業に支障が出ない範囲で容認する。フルタイムで働く社員が多く、疲労感も残る場合があり、相談によって判断したい。管理は原則しない、したとしてもアドバイス程度」

  「建設業自体、労働時間短縮(オーバーワークの是正)が課題。労働時間の算定も難しく、どの部署の社員が発言するかによって管理が異なる。もし容認するとすれば、管理せざるを得ない」

  「個人事業主型の場合、管理は必要ないと思う。現業は365日24時間体制の稼働をしており、雇用型の場合は労働時間の管理が難しい。通常は昼が主で夜が従だが、社員によっては逆転の可能性もある。個人情報だらけの会社なのでクライアントの理解も必要」

  「デザイナーやマーケティング部門の社員は副業・兼業を考えている社員がおり、すでに認めている。実際に(副業・兼業を)行ったところで成果が出せるかどうかが懸念。会社がフォローする体制を持つ必要があるのでは」

  「ワークライフバランスのうち、ライフの部分の充実を図っているが、そこに報酬が発生した時にどうするか考えている」

  など、比較的肯定的な意見が目立つ。一方、管理することへの「負担増」を懸念する声もある。

  聴講したオブザーバーからは

  「好景気を背景に論じられているが、不況に陥った場合に組合側は『副業・兼業を認めるか』と企業に詰め寄ることになると思う。企業が自社の経営を維持するために副業・兼業を認めざるをえないことも起こりうる」

  「就業規則でNGにしているが、報酬が発生しない場合まで制限してしまうと社員が動きにくい」

  などの意見も。会の終盤には、

  「前向きな取り組みとして導入するのが大前提。従業員本人の成長や自社の成長『Win-Win』のスタンスにしたい」

  「高齢者と若手でミックスして事業が考えられないか。住宅業界では、例えば現場管理では高齢者と若者を組み合わせることが日常となっている。若い人を待っても来ない業界なので、新しい風を吹かせたい」

  など、これまで論じられてきた懸念を取り払おうという意見も出始めた。

  進行を司った「北九州市立大学」(小倉南区北方4)地域戦略研究所・特任准教授の田中ひろみさんは、「将来的には『副業・兼業は自由』という社会なのかと思うが、現状は企業と社員が納得したうえで認め合うことになる。労働時間の管理に注目しすぎると、前向きになれない。柔軟に対応するための寛容なアイデアが望まれる」と締めくくった。

第2回研究会「副業・兼業を自社に導入する場合」のまとめ

【管理しない】

  • 基本的には認め、管理しないという方針を取る
  • 本業への影響が懸念される時には所属長が状況を聞き、指導やアドバイスが必要になると思う
  • もし、副業・兼業の希望者が多い場合は、経営管理による対応(制限)が必要になるのではないか
  • 個人事業主型なら管理不要

【管理する】

  • 労働時間の算定が必要。誰が、どんな働き方をするかによって管理が必要
  • 雇用型は、労働時間管理が必要であるが「ナイトシフト明けの午前中の副業は残業になるのか?」など、人事制度運用上の課題が残る
  • 申請を受けて許可をする方向になるが、本業への影響や健康管理などを考え、適用範囲を定める必要がある

【活用に対するコメント】

  • 管理に重点を置かずに始めて、必要ならルールを設ける
  • クリエイティブな業務の担当者は、副業・兼業志向がある。実際にできるのか、フォローが必要なのではないかと思う
  • すでに認めている副業・兼業に対して、曖昧さ(グレーゾーン)がなくなる、既に潜在してる副業を見える化できる一方で、見える化するとできなくなる事もあるのでは
  • 報酬・無報酬で、同じことをしていてもダメという事になるのか。また、受けるべき報酬を受けない事もある
  • 経営環境が悪くなれば、経営側が、副業・兼業を許可したということもある
  • セカンドライフ、シニア人材の活用、シニア起業にいいのではないか
  • 「自分がやっていることがこれでよかったのか症候群」への対応
  • フリーランスが活用できることが副業・兼業の土壌づくりになる
  • 「副業・兼業自由」「テレワーク可」にしていることが、新卒にアピールしている

第3回研究会
2018年2月6日(火)fabbit

「副業・兼業」容認後の管理上の課題は

 前回1月の研究会の後、「新日本ホームズ」(八幡西区折尾3)代表取締役・舟木和博さん、「戸畑ターレット工作所」(小倉南区新曽根)経営管理部長・池田真佐博さん、「日産自動車九州」(京都郡苅田町)人事・渉外部取締役常務執行役員・東俊明さん、「ネクストクリエイション」(門司区葛葉1)代表取締役・清藤貴博さん、「富士通コミュニケーションサービス」(小倉北区浅野3)総務人事サービス部担当部長・藤野英明さんらが、自社の社員に「副業・兼業」を認可(許容)した場合の管理の手法などを話し合った。

 「社員からは収??での(副業・兼業の)相談を想定している。まず、社内の他の部署で残業等を行うことでカバーできないかを考えたい。他社での副業・兼業を許可した場合も細かな管理はせず、今後何か起きた時にその都度ルールを設けていく。半年に1回程度短時間のヒアリングや健康診断結果などで(社員の)変化を読み取りたい」

 「建設業自体が過重労働などの問題で変化を問われている。副業・兼業の扱いで経営の多角化につながらないか、また、過去に在籍していた社員が持つリソースを再度自社で活用できないかなど、本業に新しい可能性を見いだせないかを考えている」

 「社員の自己実現やセカンドライフを考える上で副業・兼業を許可することは有効だと考えている。もともと所属する部門責任者と相談の上(副業・兼業を)認めているが、本業がすでに長時間労働でもあるため、労働時間や健康管理については、問題が発生した時に最適解を求めたい。基礎的なルールは最初に作るが、都度都度アップデートしていきたい

 「入社前に外資系のマーケティングをしていた社員が近々独立するが、独立後も引き続き自社の業務を続けてもらうことになっている。毎年インターンを30人程度受け入れているが、彼らが就職した先で協業できないかも考えている」

など、副業・兼業をする社員への管理は最低限にしつつ、問題が起きた場合はその都度考えるという前向きな意見に終始した。さらに、副業・兼業を容認することで、自社の活性化にもつなげようという積極論を展開する意見も。

その後、「(副業・兼業容認によって)会社の風土や従業員のマインドが変わってしまうことへの危機感や、転職につながるリスクは考えられるか」(市産業政策課課長・田原温さん)という問い掛けに対して

 「家庭の事情などでどうしても収?を上げたいという切実な希望を持つ社員以外は、本業の業務だけでかなり疲れるので、実施する社員は少ないと思う。会社全体では?きな変化はなさそう」

など、マイナスな意見は殆ど見られず、

 「副業・兼業の許可が目的ではなく、働き方改革の延長線上で進めたい。社員にとってどうメリットになるのかに注力したい」

 「常に辞表を持ち、『いつでも会社を辞めることができる』という独立マインドの社員ばかりだが、短期で成果を上げるクリエーティブな人材と、長時間じっくり取り組む製造側の人材との評価軸をどこに置くべきかが課題」

など、導入した上で向き合うべき課題への現実的な意見も出た。

会議を傍聴したオブザーバーからは、

 「最初のフォーラムで経産省の方が例示した、『(社員の)生涯の面倒を見るわけではないのに、在職中に老後の準備をすることはNGというのがナンセンス』というのが納得した。社員がいきいきと仕事をしてもらうためには、セカンドライフ実現のサポートも企業側の責務ではないか」

などの意見が出た。

会議のファシリテーションをした「北九州市立大学」(小倉南区北方4)地域戦略研究所・特任准教授の田中ひろみさんは、「企業側のメリットが可視化されていないことが、導入に踏み切れない大きな理由では」と振り返り、「これまでは、自社の社員を送り出すことへの議論に時間を割いてきたが、最終回の次回は『(副業・兼業を)受け入れる側や働き手としてのメリットを掘り下げていきたい」と締めくくった。

第4回研究会
2018年3月9日(金)秘密基地

「副業・兼業」が用意なまちは、
多様なチャレンジができるまちへ

前回2月の研究会に引き続き、「新日本ホームズ」(八幡西区折尾3)代表取締役・舟木和博さん、「戸畑ターレット工作所」(小倉南区新曽根)経営管理部長・池田真佐博さん、「ネクストクリエイション」(門司区葛葉1)代表取締役・清藤貴博さんとマーケティング部・飯島夏子さん、「富士通コミュニケーションサービス」(小倉北区浅野3)総務人事サービス部担当部長・藤野英明さんらが、実際に社内で「副業・兼業」を認めた場合のメリットなど持ち寄り話し合った。

 「市の外郭団体『北九州市活性化協議会(KPEC)』から理系の人材を受け入れ、シニアの社員とペアを組んで業務に取り組んでいる。難しいことをしがちなシニアに、初めて取り組む人にもわかりやすいようなマニュアル作りをさせることで業務の振り返りになっている」

 「(建設業は狭い社会でもあるので)情報漏えいやしがらみなどを考慮すると、送り出す側も受け入れる側も全くの異業種で取り組んだほうがリスク回避ができると感じる。完全に異業種で取り組んだほうが、企業として業務の幅も広がり、社員もスキルを広げることができる」

 「フリーランスで教育研修を行っている人を月に4日出社する従業員として受け入れている。業務は社内の教育研修と研修用の資料作りで、同じことを外注として委託するよりもコストダウンになり、資料のライセンスは会社に帰属するので今後も活用できる。その従業員も本業の営業機会獲得につながっている」

 「雇用に関して柔軟な対応ができる会社というイメージアップになり、派遣会社からいち早くいい人材の情報が得られた。送り出す側の課題を整理したからこそ、受け入れ側のメリットも見えてきた」

 「働き方改革を進めているが、正社員はいまだ労働時間が長く意識改革にまで至っていない。プロフェッショナル人材を受け入れることで社員が健全な危機感を持ち、意識改革につながっているようだ」

など、受け入れ側としてもメリットを実感している意見が出た。

市産業政策課課長・田原温さんは「異質なものが体内に入ることで変革が生まれる。受け入れ側のニーズを高めることも実効性につながるのでは」と呼び掛けたところ、

 「副業・兼業に取り組もうとする社員はほんの一部だが、彼らがあきらめない仕組みづくりが必要。まずは(人事担当である)自分が月に1日でも他所で働くことでロールモデルとなり、社員に示したい」

と、具体的な案を示した企業もあった。終盤、4回のミーティングを振り返った意見を求められた参加者からは

 「働き手としては『時間をお金にする』場合と『スキルをお金にする』に2つの考え方がある。雇用側は『スキルを活用したい』と考えている企業が多いが、働き手の持つスキルとマッチングさせる環境がない。『副業・兼業』は言葉が固く、みんなが参画しやすい環境づくりも課題では」

 「人材を探すことは、実はすごくお金がかかる。行政側で人材をマッチングする仕組みを作ってもらえれば」

 「このまちで働く市民だけでなく、北九州市や企業の課題解決につながる。企業誘致の面でもメリットに繋がるのでは」

 「65歳で入社し、今現在80歳で東京大阪を飛び回って営業している社員がいる。高齢者は経験が豊富で人間性も高く、若者と安心して取り組ませることができる。北九州に行けば『セカンドキャリアでスキルを活かせる』というイメージ作りができれば人口増にもつながるのでは」

など、副業・兼業を容易にするための環境整備や、社会課題解決に繋げる前向きな意見が出た。

会議のファシリテーションをした「北九州市立大学」(小倉南区北方4)地域戦略研究所・特任准教授の田中ひろみさんは、「働き手のスキルの見える化や企業とのマッチングは今後の課題として残るが、『経験豊富な人材のいるまち』という(デメリットであるはずの)高齢化をメリットに変え、専門家人材の交流が進むことで、人生100年にいち早く対応した社会づくりにつながるのでは」と締めくくり、市産業政策課課長・田原温さんは「副業・兼業が身近なまちは、多様な挑戦ができるということ。多少失敗しても大丈夫という安心感や挑戦マインドがこのまちを変えていく」と期待を込めた。

「次世代ワークデザイン研究会」への問い合わせは、市産業経済局産業政策課 TEL 093-582-2299