建築家・磯崎新さんによる北九州市内の公共建築を巡るツアーが5月20日、行われた。
「丘の上の双眼鏡」と呼ばれた「北九州市立美術館」。「磯崎さんが激怒した」という上げ裏が見える
磯崎さんは「建築界のノーベル賞」といわれる「プリツカー賞」の2019年度受賞が今年3月に発表され、日本人としては、丹下健三さんや槇文彦さん、安藤忠雄さん、妹島和世さん、西沢立衛さん、伊東豊雄さん、坂茂さんに続き、8人目の受賞者となる。ツアーは磯崎さんの下での修業経験を持つ建築家・西岡弘さんによって案内され、報道や建築関係者ら約20人が参加した。
磯崎さんは、東京大学工学部建築学科を卒業後、「丹下健三研究室」を経て独立し、1963(昭和38)年「磯崎新建築アトリエ」を設立。「大分県立大分図書館(現アートプラザ)」(大分県大分市)や「福岡相互銀行(現西日本シティ銀行)本店」(福岡市)など個性的な建築を次々と発表した。その自由で斬新な発想の設計手法に感銘を受けた当時の北九州市長・谷伍平さんの、「旧五市のほぼ中心地で見晴らしがよく、美術鑑賞にふさわしい閑静な場所に北九州のランドマークとなる建物を」という要望に応えて1974(昭和49)年、後に「丘の上の双眼鏡」と呼ばれる個性的な外観の「北九州市立美術館」(戸畑区鞘ヶ谷)が生まれた。
西岡さんは美術館建築当時を振り返り「双眼鏡の上げ裏(下から見上げた底)部も、その上部と同じアルキャスト(アルミの鋳物板)を貼るはずだったが、現場に来てみると一般的な素材になっており、磯崎さんは激怒した」というエピソードを明かした。
この日は、同美術館「アネックス棟」(1986年、同)、「北九州市立中央図書館」(1974年、小倉北区城内4)、「西日本総合展示場本館」(1977年、浅野3)、「北九州国際会議場」(1990年、同)も見て回り、斬新なデザインの裏側にある現場の苦労などを西岡さんが披露した。「これだけ多数の磯崎さんの代表的な公共建築が存在する都市はほかにない。磯崎さんは自著の中でも谷伍平さんを、自身を高く評価してくれた重要なパトロンの1人だったと明かしている」と西岡さん。
「欧米人の建築家と並んでも引けを取らない大柄な体格の磯崎さんらしく、大胆な構成の建築が多い。その時々のスタイルを大胆に取り入れることで、磯崎さんらしさを作り上げてきたが、(審査員からは)それは一貫性の無さと捉えられたのかもしれない。受賞の報を聞いて正直ほっとした。遅すぎるくらい」とも。
市産業経済局MICE(マイス)推進課の担当者は「今後、『建築マップ』の整備なども視野に入れている。(建築デザインを)都心集客へのコンテンツとして育てたい」とツアーの意図を話した。